先日、築200年を超える町屋を改装したカフェのオープニングに伺った。
場所は姫路駅から歩いて25分ほど、城の東側を流れる中堀の近くの住宅街の一角にある。
屋号は「小倉屋茶房(住所:姫路市堺町30)」。店主の塩本知久さんによると、建物は江戸時代半ばの寛政(1789年~1801年)に完成したもので、もともとは金物の商家だった。これほどの築年数のものは古民家が点在する周辺でも珍しいのだという。
中に入ると、すでに町内の住民が所々に腰掛けてくつろいでいた。座布団の用意された座敷のほか、土間の縁に座る方、庭を見渡せる奥の間で談笑する方。思い思いの過ごし方のできる間取りには、ゆとりとどこか懐かしい感覚が漂う。土間は奥の庭へと通じていて、柔らかい光が差し込む。室内全体を吹き抜ける風が心地よい。背中にたまった汗もいつの間にかひいていた。
この日は、野里・東同心町のロースターの豆を使ったコーヒーや姫路市内にある香寺ハーブガーデンのハーブティーに加え、この日だけの特別メニュー、福崎町でクラフトチョコレート店を営むカカオマンさんによるスイーツが振る舞われた。
物件を取得したのは3年半ほど前とのことだが、当初からお店にする計画があったわけではないという。マンション建設のために取り壊されることを知って、なんとか残せないだろうかと考え購入を決意したという塩本さんの言葉からは、城下の町の記憶を残していきたいという想いが滲む。
「お城といえば、天守閣の方に目が行きがちですが、歴史的な経緯を含めて考えると、その特徴は、城を取り巻く城下町の繁栄にあるんです。城下町を一緒に考えなければ、本来は伝わらないんです。姫路で生活する市民にとって、城下町は大事なはずなんです」。
伝統的な建築技術を絶やさないために、職人に実践の場があることの重要性についてもお話をいただいた。
アイデアはカフェにとどまらない。書斎風のスペースにある本棚には、兵庫県・市町村に関する史料や研究書、風土記などがずらりと並ぶ。寄贈を受けたもので、将来的に私設図書館としての活用も視野に入れているという。人々が集い、記憶が紡がれていく。新たな役割で町屋が生まれ変わった。